みなさん、こんばんは。
愛原 夢音です♪
脳科学者・茂木健一郎さんが日本や世界を舞台に活躍している人々を迎え、その人の夢や挑戦に迫っていく番組、Dream Heart。
ゲストは前回に引き続き、4人組バンド・クリープハイプの
尾崎世界観さんです。
前回は小説「母影」を中心にお伝えしてきましたが、
今回は尾崎世界観さんの夢や挑戦に迫っていきます!
7年間に納得のいく歌を歌えなくなってしまったという、
尾崎世界観さん。
「でも、小説を書くことで別の表現があるのだと
気持ちが救われた気がした」
と、尾崎世界観さんは話します。
尾崎世界観さんが歌を歌うことや小説を書くことのバランスについて、
さらに尾崎世界観さんの「夢は調整すること」という言葉の
真意についても探っていきます。
どうぞ、最後までお付き合いください!
Contents
”世界観”を名前にすれば言われないと思った 芸名の意外な由来
尾崎世界観さんの、”世界観”というお名前。
なぜ世界観という名前を芸名にしたのか、みなさんご存知ですか?
まず…尾崎世界観さんの本名は、尾崎祐介さん。
そうです、尾崎世界観さんのデビュー作「祐介」は
尾崎世界観さん自身の名前だったんです!
尾崎祐介さんが尾崎世界観と名乗り始めたのは、21歳のとき。
ライブを見た観客や関係者などから発せられた“独特の世界観がある”
という言葉に対抗するかのように、世界観という名前を芸名にしました。
これが、尾崎祐介さんが尾崎世界観という名前で
活動するようになったきっかけです。
「独特の世界観がいいねと言われてたから、腹が立った?」と
茂木健一郎さん。
この質問に対して、尾崎世界観さんはこう話します。
「腹が立ったというか、言葉として何なんだろうって。
これをあえて芸名にししたらどうかなって思って、
名前にしてみました。」
名前をつけちゃえば、”世界観がいい”と言われないだろうと
尾崎世界観さんは思ったそうです。
すると逆に、「世界観ってどういう意味ですか?」と
聞かれることが多くなったといいます。
尾崎世界観さんは、”世界観”で曲をつくっているわけではありません。
世界観という言葉自体が、どこかふわっとした
曖昧なものなのでもう少し具体的に掘り下げていきたい。
尾崎世界観さんは、そう考えています。
世界観という言葉だけで片付けずに、自分なりの言葉を
たくさん出してそれを表現したい。
尾崎世界観さんにとっての”世界観”は、いわば表現に対する
努力を怠らないための目印のようなもの。
尾崎世界観さん自身の名前に、ずっとついて回りますからね。
ここで、茂木健一郎さんが脳の研究をしている立場からコメントが。
クリエイティブでいいことができる人は、ふわっとした曖昧な
世界観で満足せず、具体的にもっと掘り下げることをしているようです。
一方でクリエイティブであまり良い結果を出せない人は、
曖昧な世界観で満足してしまいがち。
そこから掘り下げるということは、しないそうなんです。
これでは、成長は止まってしまいますよね。
これが、クリエイティブで良い結果を出せる人と出せない人の
決定的な違いであり分かれ道だといいます。
尾崎世界観さんの場合は、”その先が大事”と茂木健一郎さん。
尾崎世界観さんは、そのことを既に10代の頃から
分かっていたといいますから…すごいですよね。
では、ここで尾崎世界観さんのプロフィールを改めて
ご紹介していきたいと思います。
尾崎世界観さんは、1987年東京都のご出身です。
2001年に結成したロックバンド・クリープハイプの
ボーカル・ギターを担当。
2012年にリリースされたアルバム
「死ぬまで一生愛されると思ってたよ」で
メジャーデビューを果たしました。
2016年には初の小説「祐介」を書き下ろしで刊行。
その他にも、「苦渋100%」、「苦渋200%」、
「泣きたくなるほど嬉しい日々に」などがございます。
そして1月29日に新潮社より刊行された「母影」が
第164回芥川賞にノミネートされ、話題になりました。
「上手く歌えなくなった」尾崎世界観を救った小説
「クリープハイプはメジャーデビューしてから順調だったんじゃない?」
という茂木健一郎さんの質問に尾崎世界観さん、
まさかの質問返し…。
「茂木さんに聞きたいことがあるんですけど」と前置きして、
尾崎世界観さんは話し始めます。
最初はバンド活動も順調で楽しい日々を送っていた
尾崎世界観さんですが、メジャーデビューの前と後では
あまりの自由度の違いを痛感することになります。
メジャーデビューの前は、尾崎世界観さん自身で曲をつくり
レコーディングをして、ライブで新曲を披露し曲を育てていくと
いう流れでした。
しかし、メジャーデビュー後は違いました。
レコード会社から、「明日までにつくりなさい」と言われることも
よくあることで、「ライブもこれだけやるから」と、どんどん
いろいろなことが決まっていくようになりました。
最初は、それがとても嬉しかったのですが
次第にそのペースに追いつけなくなってしまったことも。
そんな状態が続いた尾崎世界観さんに、ある異変が襲います。
それは、歌が上手く歌えなくなってしまったということ。
今から7年ほど前のことです。
自分の理想のメロディーの流れが上手く連動せず、
首がグッとしまって声が出てこなくなることが長く続きました。
バンドをやめるかどうかというところまで、
尾崎世界観さんは追い詰められていたんです。
そんなときに、尾崎世界観さんに
「小説を書きませんか」というオファーが。
そう声をかけられたのは偶然だったそうですが、
小説を書くことで救われたといいます。
小説は音楽とは、違う表現をしますからね。
尾崎世界観さん自身、小説を書いていてうまくいかないことや
難しく感じることもよくあります。
厳しい評価をされることも。
それでも、その中で小説を書いていくというのは
どこか音楽とつながっているところがあるとか。
ちなみに…尾崎世界観さん、未だに思ったように
歌うことができないそうです…。
不自由だからこそつくれるものがある
「母影」の主人公の”読めるけど書けない”という設定やテーマ。
そして、語彙の少ない子供の視点で書くということ。
これは、尾崎世界観さんの今の音楽活動に近いものがあります。
それは、何かと不自由なところがあるということ。
尾崎世界観さんは、そのことをいろいろ調べていくうちに
脳の回路が関係しているという答えに辿り着きます。
脳の回路がどのように関係しているのか知りたい。
そんな疑問を、尾崎世界観さんは茂木健一郎さんにぶつけます。
困難を抱える人ほど、それを乗り越えようとすると
すごいクリエイティブになる。
そう、茂木健一郎さんはいいます。
その例としてよく挙げられるのが、あの有名なアインシュタイン。
アインシュタインは子供の頃、言葉を話すのが苦手でした。
5歳まで喋らなかったとか。
それを乗り越えようとして、空間のイメージなどを考えていたのが
相対性理論をつくる天才的なものになっていたのではないか、と
言われています。
「尾崎世界観さんの作品を見ていると、そういうブロックのような
上手く出せない感覚がありますよね」
と、茂木健一郎さん。
尾崎世界観さん自身も、それを自覚していました。
そのブロックがあるからこそ、作品を生み出せる。
尾崎世界観さんは、そういいます。
この”ブロック”について、尾崎世界観さんはこう語っています。
「こうなる前にも、別のブロックはあったはずなんですよ。
もし何もなかったら、今続けていたかの保証はないですね。
すごく気にするようになったんですよね、上手くいかない分。
他のことをつぶしていくというか、悪い要素をどんどん
つぶそうとして努力していくようになったし、
確実に歌うということには以前よりも執着してるんですよね。
歌えなくなったことによって。
そして、小説という新しい表現に辿り着きました。」
悔しかったときに一段上がってそれを必ずネタにして消化する。
それが、尾崎世界観さんの目標でもあります。
かの有名な夏目漱石は、「坊っちゃん」を書いたことが
自分にとって救いになったと書いています。
エゴサーチで得たことをクリエイティブに活かす
尾崎世界観さんにとっても、小説を書くことで
自分自身が救われるという意識はあります。
「すごく救われるし、言い訳の一種でもある」と尾崎世界観さん。
自分の至らないところを、全部文字にして書くそうです。
これは音楽にもいえることです。
音楽の場合は多少”気取っている”ところがありますが、
小説は違います。
なぜなら、何もない中で一から書いているからです。
“恥ずかしい言い訳”をどれだけ成立させられるかというのが、
尾崎世界観さんのテーマとなっています。
それはつまり、自分と向き合うということですね。
尾崎世界観さんはエゴサーチをするという噂がありますが、
その噂は本当です。
やめたいけどついついエゴサーチをしてしまうという、
尾崎世界観さん。
脳の構造的にどうやったらエゴサーチをやめられるのか…と、
お悩みのご様子。
エゴサーチをすると、いいことも書かれているけどいいことは
すぐに消えてしまい、たまたま目にした悪いことだけが
残ってしまうというんです。
それを見た時、尾崎世界観さんは単純に傷つくといいます。
と同時に、苦しくもなるそうです。
「なんでこんなこと言うのかな?と思って、
その人のアカウントを全部見て。納得したら次に行きますね。」
と、尾崎世界観さん。
その行動力がすごいですよね。
エゴサーチでたまたま悪いことだけが残ってしまっても、
尾崎世界観さんはそれをクリエイティブに活かしています。
まさに、発想の転換ですね。
それをエネルギーとして使っているとのことですが、
それもだんだんと苦しくなってきたとか…。
ですがこれを逆にいうと、クリープハイプはメジャーなバンドに
なっていますし、今回「母影」が芥川賞の候補にもなりました。
ですから、尾崎世界観さん自身が望めば自分が傷つかない
ポジションにも行けるのでは?
そんな茂木健一郎さんの言葉に、
「それはやっぱり、無理なんですよね」と尾崎世界観さん。
恥ずかしさもあるようですが…そのポジションには入らないのだそう。
デビュー作「祐介」に出てきた“何者でもなかった頃”と同じ気持ちが、
尾崎世界観さんの中には今もあります。
当時と比べると、”とんでもなくありがたい”場所に立っている
尾崎世界観さんですが…
自分が傷つかないポジションに行ってしまうと、
それと同じ分だけ溝ができてしまう。
レベルの高い場所に行けば、当然のことながら自分の力が通用しない。
つまり、その当時の自分と同じなんです。
10代のときにだめだったときと、何も変わらないまま
景色だけが変わっていくということなんですね。
全く関係のない本を読みながら小説を書く!?
尾崎世界観さんは、一つのことに向き合っている人を見るのが好き。
一方で、自身が一つのことにずっと向き合うのは苦手なんです。
そこまでの集中力がなく、
少し時間が経つと”意識が散漫”になるのだとか。
そのため、尾崎世界観さんが小説を書くときのスタイルは、
かなり変わっています。
小説の原稿を少し書いたら、他のことをする。
そしてすぐに、小説の原稿を書く。他のことをする。
その繰り返しが延々と続きます。
しかも!
本を読みながら書くそうです。
何かの参考にするために、というわけではなく
全く違う小説を読むというんです。
本を読みながら書く、ということを繰り返して
執筆作業は進んでいきます。
意識を真逆に振りたいため、このような執筆スタイルに…。
読んでいる本は、全く関係ない本なので影響はされないといいます。
読者になることと書き手になることを超高速で繰り返すことで、
尾崎世界観さんの中で摩擦が起こります。
擦れることによって、小説を書けるといいます。
作家によっては、執筆の際に他の作品を読むと
影響されるから読みたくないという方も多いですよね。
でも、尾崎世界観さんはむしろ読まないと進まないようです。
子供の頃から変な子だと思っていたという、尾崎世界観さん。
芥川賞候補になった「母影」を読んだ尾崎世界観さんのお父さんが、
「そういえばそういう子供だった」と尾崎世界観さんの
小学生時代を思い出したそうです。
尾崎世界観さん自身が子供の頃を書くことによって、
父親の過去も引っ張り出した。
それが、尾崎世界観にとって新しい発見となりました。
尾崎世界観の夢は”調整する”こと その言葉の真意とは
それでは最後に…
この番組のメインテーマである夢や挑戦について
尾崎世界観さんに伺いました。
尾崎世界観さんの夢は…調整すること。
これは一体、どういうことなのでしょうか?
自分自身と影のような感じで、同じ距離感をちゃんと
保ち続けることをしたいと尾崎世界観さんは考えています。
日本の楽曲でグラミー賞とります!とか、
ノーベル文学賞とります!と宣言してしまうと尾崎世界観ではなくなる。
要するに、挑戦するのではなく調整をするということ。
調整をするといっても、現状維持ではないですよ?
動いているところも見せていきたいし、調整もしていく。
自分らしいバランスを保ちつつ、
いろいろな表現をしていきたいといいます。
尾崎世界観さんの目先の目標は、芥川賞受賞!
これからも、ますます尾崎世界観さんの活動から目が離せませんね。
ここまで、尾崎世界観さんの夢や挑戦についてお伝えしてきました。
みなさん、いかがでしたか?
ロックバンド・クリープハイプがメジャーデビューして
成功を収めてきた尾崎世界観さんですが、
依然として自分自身の中にャップがありました。
そのギャップというのは、自分の内側にあるもの。
そのギャップを埋めるというよりかは、
調整をするということなんですね。
挑戦ではなく、調整。
この言葉は、とても深いもののように思います。
ずっと”世界観がいいね”と言われ続けても、曖昧な言葉では
満足することなく、さらに具体的にピンポイントで
指し示すものがあるのではないか、と掘り下げていく。
これが、とても大切なことだと感じました。
これが夢ですと言ってしまうと、どこかにズレが生じてしまう
ところが尾崎世界観さんにはあって、そこに常に忠実でいる。
その姿勢に、たくさんのことを学ぶことができた気がします。